日本とは違う!アメリカのペット殺処分ゼロシステム

 アメリカには“No kill shelter”と呼ばれる殺処分ゼロを実現している動物愛護施設があります。日本でも神奈川県動物愛護センター等の殺処分ゼロを実現している場所はありますが、アメリカでの事例を詳細に見ていくと問題解決を支えている背景には日本との大きな違いがありました。



 カリフォルニア州南部のロングビーチにあるSociety for the Prevention of Cruelty to Animals Los Angeles (spcaLA;ロサンゼルス動物虐待防止協会)*1は、殺処分ゼロを達成している一つのNPO団体です。この施設では、単に保護動物を預かり里親を探すだけではなく、様々なパートナーと連携しながら多角的なアプローチで動物たちが幸せに生きられる世界を作っています。具体的には、動物の保護や譲渡に加えて、災害時の動物支援やペットホテル、飼い主への飼育や愛護に関する教育・啓蒙などの多岐に渡る活動を行なっています。spcaLAは、個人や会社、財団からの寄付金によって運営が行われており、職員の方々とボランティアや獣医師、動物看護師、トレーナー、ペットフード提供会社などが連携しています。もちろん、全ての保護動物に里親が見つからない場合もありますが、その場合spcaLAでは殺処分されることはなく、生涯spcaLAで生活することができます。spcaLAでの“殺処分ゼロ”は、職員や関与している方々の一生懸命な努力によって支えられているのは間違いありませんが、社会全体として存在する日本とは異なる動物に対する人々の考え方が大きな役割を果たしていると思います。具体的な違いについて、3つご紹介します。


 一つ目は、動物を飼う際の保護動物の迎え入れが当然であること。アメリカでは州や市の条例として、ペットショップ等での生体販売が禁止されている地域が多く存在します。この法的な影響もありますが、アメリカ2大ペット用品店(Petco, PetSmart)が大きく貢献していると考えられます。業界をリードする企業が生体販売をやめ、その意義・必要性を発信し続けたことが世の中の雰囲気を変えてきたと言えるでしょう。


 二つ目は、寄付が積極的に行われる文化。寄付による税金控除制度の違いなどもありますが、動物愛護に限らずそもそも寄付に対する人々の意識が強いです。アメリカやヨーロッパでは、キリスト教に由来する「助け合う」「分かち合う」文化が根付いています。欧米を旅行した際に、ホームレスの人たちへお金を渡す人が多いことに驚いた人もいるのではないでしょうか。こういった文化が浸透した国だからこそ、NPO団体がより多くの支援を集められ、より大きな規模で継続的に活動できているというのは一つの事実です。


 最後の三つ目は、血統による商業的なブームが発生しにくいこと。もちろんアメリカでも人気の犬種などはありますが、日本のようにテレビなどのメディアで取り扱われた犬種が爆発的に人気を集め、定期的に移り変わっていくということはあまりありません。また、日本の保護犬里親募集を見ると、残念ながらこれまで人気を博してきた犬種が多くいることがわかります。無責任に飼い始めその後飼育放棄をしてしまう人が出たり、ブームに合わせて特定の犬種の繁殖が多く行われて時間の経過とともに過剰供給となり飼い主がみつからなかったりしています。現在もコロナ禍で人と接する機会が大幅に減ったことから、(血統によらないですが)ペットブームが起きています。既に新しい家族を迎え入れた方はどんなことが起きても責任を持って飼育し、現在飼うことを検討されている方は動物が快適に生活できる環境を生涯提供し続けることができるかよく考えてから判断して欲しいです。



 今回の記事では、アメリカと日本を比べて、社会・仕組みとしての動物愛護に対する取り組みの違いについて書きました。アメリカもまだ課題が残ってはいますが、日本が学べることは多くあります。日本でも多くの個人や動物愛護団体の方々が日々辛い想いもしながら、動物のために頑張ってくださっていますが、抜本的に改善していくためにはそういった方々の慈善に頼り切るのではなく、動物が大好きな人もそうでない人も含めて社会全体として変わっていくことが重要であると思います。


青柳 / Taku Aoyagi


*1 : https://spcala.com/

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